19921218

考えていることをつらつら書きます。

存在の他愛なさ ~現実逃避一日目~

ふと思い立って

私は海へ逃げました。

 

このところ、

春の空気が私の心を

侵していました。

 

うららかな外の空気がひどくわたしの体と心には堪えたのです。

 

毎年四月と五月は、うつうつとしていて

 

そんな空気を断ち切るために

 

太陽に抗うために髪を深紅に染め、

毛先にたまった黒い垢もすべて切り落として

一冊の本と、買ったばかりのカメラを片手に

電車に飛び乗りました。

 

ただ海を見ることしか考えていなかったので

観光らしきものはほとんどしていません。

 

一日目の午後三時から二日目の午後三時まで

二十四時間の逃避行の記録です。

 

一日目

PM3:00~4:00

北鎌倉円覚寺

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人のいない静かな場所を求め、最初に降り立ったのは

幽玄の地でした。

生憎、舎利殿は遠くからしか眺めることはできず。

時のとまったようなこの空間が、

あふれんばかりの緑と花

線香の煙と匂いにみたされ

ただただ、延々と流れ続ける空気と水の音だけが響いていました。

 

ふと、線香の煙の奥に死の世界を垣間見たような気がしました。

なぜ、人は白い小さな花と、緑と、煙だけで死をイメージするのでしょうか。

その場所が明らかにほかの場所と空気が違っていたのはなぜなのでしょうか。

世界はこうも様々な相を見せるのかと

ある種の恐怖心を抱きました。

 

 

 

PM4:30~5:00、6:00~7:00

温泉があると聞き

江ノ島電鉄に乗り、稲村ケ崎

 

駅を降り、坂を下ると

海が広がっていました。

 

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この日はもともと海をみる予定はなかったのにもかかわらず

途中で温泉をはさみ計2時間近くいました。

 

持って行った一冊の本を取り出し

最初の4ページをゆっくりと読んでいました。

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この本を読むのは人生で四度目になります。

高校生の時分に出会って以来、

毎年、四月から五月にかけて、豊饒の海4巻を

読んでいます。

 

第四巻であり、三島の絶筆の書となった

天人五衰の冒頭4ページには

皐月の海が描かれています。

 

海は絶えず攪拌され、じっとしていることは自然の悪をよびさますだろうと

海の上には生起の絶え間がないと

存在の鐘がいつも鳴り響いていると

 

4度目は

その海を

絶えず陸を侵す波の音を聞きながら

感じたいという気持ちが私を海に向かわせました。

 

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海は

生の根源

だからこそ

子宮であり

 

大地は

その体

だから母と呼ばれるのかもしれない

 

乳海攪拌のインド神話に思いを馳せながら

そんなどうでもいいことばかりを考えていました。

 

水は冷たいはずなのに

見ていた海は

女性器のナカのようにあたたかくて

 

そのあたたかさのなかで素直に泣くことができました。

 

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陽も傾いてきたころ

わたしは疲れを感じ

ホテルへ向かいました。

 

不眠で悩んでいましたが

この日はぐっすりと眠ることができました。