中とダクトの話
いつのころからか、中村はオレンジだった。
中村だけじゃない。中野さんも竹中さんも中井さんも中林さんも、
そして、中央改札も中央大学もオレンジだった。
中という漢字そのものがオレンジなわけではない。
中がほかの漢字と組み合わされたとき、私の頭のなかはオレンジになる。
別に小学校のとき同じクラスだった中林さんや中村さんがオレンジをいつも身に着けてたという記憶もない。
でも、小学校のころから確かに中村はオレンジだったのだ。
いったいなぜ私の頭のなかの配線は狂ってしまったのだろうか。
中村という漢字を見ただけで、ナカムラという音を聞いただけでオレンジが浮かんでくるのが普通ではないことは明らかだ。
中だけではない。那と沼は紫、新は赤なのである。
視覚的にその漢字に色がついて見えるわけはないが、たしかに頭のなかには色がある。
人間の頭の中は無数のダクトが絡み合う一つの都市である。
きっと私の都市のダクトには、ダクトを食べる性質の悪い鼠が住んでいて、
ダクトに穴をあけているに違いない。つながるはずのないダクトの間を空気が通り抜けているに違いない。
最近、頭の中を縦横無尽に駆け巡る鼠のかげがチカチカして煩わしい。
少し疲れているみたいだ。